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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)43号 判決

前橋市大渡町2丁目1番地の5

原告

群馬綜合ガードシステム株式会社

代表者代表取締役

川崎弘

前橋市青柳町630番地の10

原告

内海征夫

原告ら訴訟代理人弁理士

大塚康徳

松本研一

丸山幸雄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

武井袈裟彦

酒井伸芳

小池隆

主文

特許庁が平成6年審判第1635号事件について平成8年10月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

主文第1項同旨の判決

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和63年10月7日、名称を「断線報知装置」とする発明(本願発明)について特許出願したが(昭和63年特許願第252082号)、平成5年12月21日拒絶査定があったので、平成6年1月20日拒絶査定不服の審判を請求し、平成6年審判第1635号事件として審理された結果、平成8年10月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成9年2月17日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(本願明細書の特許請求の範囲の記載)

「少なくとも2つの回線を収容し、回線の切り替え機能を有する断線報知装置であって、

収容する回線の断線をそれぞれ監視する複数の断線監視手段と、

各断線監視手段からの断線情報により回線の断線を検出すると、該断線以外の使用可能状態の回線を捕捉する回線捕捉手段と、

前記回線捕捉手段により捕捉した回線から所定の場所へ発信し、回線の断線を報知する報知手段とを備えることを特徴とする断線報知装置。」

(実施例のブロック図につき、別紙本願発明図面参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項のとおりと認める。

(2)  引用例(別紙引用例図面参照)

原審における拒絶の理由に引用した、特開昭58-213554号公報(引用例)には、電話回線の断線を検出し監視局に通報する回線断線報知装置に関し、特に、第1図及びその関連説明において、断線判定手段5は、接点切替手段3の接点対a11・a12、a21・a22、……のいずれかを閉じると、選択された電話回線に、ブリッジ回路51の低周波発信手段OSCより例えば約16Hzの周波数f1の信号が送出され、同回路51において、回線が断線状態の時には、不平衡電圧が正常状態の時に比べて大きくなるように回路51の各素子Ra、Rb、Rc、Caの値を選定されているところ、回路51の出力は共振回路R、平滑回路52のダイオード及び容量を介しレベル判定回路53に送出されること、判定回路53は、回線断線の時には不平衡電圧が基準電圧よりも高くなり、起動信号及びパルス停止信号を送出し、このパルス停止信号はパルス発生回路41、次に、アドレス選択回路42に送られ、回路42では、加入者の電話番号に対応したアドレスが選択され、このアドレスが加入者電話番号記憶回路61に送出され、前記アドレスに対応する電話番号がシフトレジスタ62にシフトされること、シフトされた番号情報が送られるデータ発生回路72は、警備本部2の電話番号を記憶している本部電話番号記憶回路73を起動して、自動ダイヤル回路75により警備本部2へ電話回線を使用して自動ダイヤルする、すなわち、データ発生回路72は、警備本部2へ、断線している当該電話番号とその断線情報を電話回線を使用して通報すること、また、第2図及びその関連説明によれば、第2図のものは、回線断線報知装置の第1図の変更例を示しており、警備本部2と異常通報手段8との間に通信回線として直結された専用回線10を設けており、この専用回線を使用することにより、電話回線を使用した場合に比べ警備本部を呼出した後応答を待って断線を通報する時間の短縮などを図ることができる。

(3)  審決がした一致点、相違点の認定

本願発明と引用例に記載されたものとを対比すると、引用例に記載のものも、複数の回線を収容しており、このような回線が接続される電話局の交換局1は、回線の切り替え機能を本質的に有する交換機を備えているものと認められ、また、引用例の断線判定手段5は、収容する回線の断線をそれぞれ監視する断線監視手段に相当し、同じく、異常通常手段7は、断線情報を警備本部、すなわち所定の場所へ発信し回線の断線を報知する報知手段に相当するから、

両者は、少なくとも2つの回線を収容し、回線の切り替え機能を有する断線報知装置であって、収容する回線の断線をそれぞれ監視する複数の断線監視手段と、断線情報を所定の場所へ発信し、回線の断線を報知する報知手段とを備えることを特徴とする断線報知装置、である点で軌を一にするが、

〈1〉 本願発明の断線監視手段は複数であるが、引用例に記載のものは1つである点(相違点〈1〉)、及び、

〈2〉 本願発明では、断線監視手段からの断線情報により回線の断線を検出すると該断線以外の使用可能状態の回線を捕捉する回線捕捉手段を備え、この回線捕捉手段により捕捉した回線から断線情報を発信しているが、引用例にはこのことが明記されていない点(相違点〈2〉)、において相違するものと認める。

(4)  相違点に関する審決の判断

相違点〈1〉に関し、断線監視手段である、引用例の断線判定手段5は1つであるが、しかし、実際は、加入者個々の電話回線に設けられた複数の切替接点対a11・a12、a21・a22、……を切替制御することにより個々の回線の断線を判定している(2頁左下欄8行ないし13行)から、引用例に記載のものも、実質的に複数の断線監視手段の機能を果たしているので、この相違点は特別なこととはいえない。

相違点〈2〉に関し、引用例の第1図のものでは、回線の断線を示す断線情報を電話回線を使用して通報する(2頁左下欄4行ないし8行及び3頁左下欄9行ないし12行)ものであり、この電話回線は、第2図の専用回線を使用する場合と対比してみても(3頁右下欄12行ないし15行)明らかなように、一般の電話回線と認められる。ここで、一般の電話回線に対する交換局(交換機)は、通常、使用可能な回線を用いて交換接続して発呼者と被呼者間で呼の回線を形成するから、引用例に記載のものでも、断線監視手段からの断線情報により回線の断線を検出すると、交換局により断線以外の使用可能状態の回線を捕捉し、この捕捉回線から所定の場所へ断線情報を発信していると認められるから、相違点〈2〉も格別なこととはいえない。

なお、原告らは、平成6年2月21日付け審判請求理由補充書の3頁9行ないし11行(平成5年1月25日付け意見書の4頁2行ないし5行も参照)において、本願発明は電圧を監視して断線を検出する旨を主張しているが、引用例に記載のものでも、16Hzの低周波信号を選択された電話回線に流して、断線の有無に基づくインピーダンスの変化による電圧分をブリッジ回路51に引加して不平衡電圧を出力し断線判定をしているのであり、引用例の特許請求の範囲においても、判定手段は「回線の断線又は正常を電圧により判定する。」と記載していることより、この主張を採用することはできない。

(5)  審決の結び

以上のとおりであり、本願発明は、引用例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3  原告ら主張の審決取消事由

審決は、引用例に記載のものの技術内容を誤認して本願発明と引用例に記載されたものとの間の一致点の認定を誤り、その結果相違点〈1〉に関する判断を誤り(取消事由1)、また、相違点〈2〉に関ずる判断を誤ったものであり(取消事由2)、その結果、誤って本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

1  取消事由1

審決は、「引用例の断線判定手段5は、収容する回線の断線をそれぞれ監視する断線監視手段に相当する」ことを前提として、本願発明と引用例に記載のものとの一致点を認定したが、誤りである。

すなわち、引用例に記載の断線放置装置では、交換局1を含む構成となっていて、警備本部2への発信用回線は断線することがないという前提で構成されており、異常通報装置7から交換局1を通して警備本部2に通報する電話回線については、断線判定手段5が断線の監視を行うものとなっていない。審決は、監視していない回線について上記の認定をしたものであって、誤りである。

審決は、相違点〈1〉に関し、「断線監視手段である、引用例の断線判定手段5は1つであるが、しかし、実際は、加入者個々の電話回線に設けられた複数の切替接点対a11・a12、a21・a22、……を切替制御することにより個々の回線の断線を判定しているから、引用例に記載のものも、実質的に複数の断線監視手段の機能を果たしているので、この相違点は特別なこととは言えない。」と判断したが、これは、上記のように、本願発明が収容する回線の断線をすべて監視しているのに対し、引用例に記載のものでは、発信に使用する回線(異常通報装置7)の断線を監視していないという相違点を看過した結果の判断であって、誤りである。

また、審決の上記判断は、引用例に記載のものの断線判定手段5が個々の回線の断線を判定しているから、引用例に記載のものも、実質的に複数の断線監視手段の機能を果たしているとするものであるが、そもそも断線監視手段の個数は相違しており、この相違点を看過した点も誤りである。

2  取消事由2

審決は、相違点〈2〉に関して、「一般の電話回線に対する交換局(交換機)は、通常、使用可能な回線を用いて交換接続して発呼者と被呼者間で呼の回線線を形成するから、引用例に記載のものでも、断線監視手段からの断線情報により回線の断線を検出すると、交換局により断線以外の使用可能状態の回線を捕捉し、この捕捉回線から所定の場所へ断線情報を発信していると認められるから、相違点〈2〉も格別なこととはいえない。」と判断したが、通常、交換局は発呼者と被呼者との間で呼の交換接続を行うのみであり、交換接続の際に、使用可能な回線か否かについては関知しておらず、一般の電話回線に対する交換局(交換機)は、断線以外の使用可能状態の回線のみを捕捉するようなことはしていない。

審決の上記判断は、この点を看過した結果のものであり、誤りである。

第4  審決取消事由に対する被告の反論

1  取消事由1について

(1)  本願発明の要旨は、「収容する回線の断線をそれぞれ監視する複数の断線監視手段」というものであり、その実施例には、収容する回線のうち、局線側の回線は断線監視しているものの、内線側の「収容する回線」については断線監視していないものがあって、これは収容する回線すべてを監視するものではない。そして、本願発明の要旨中の「収容する回線の断線をそれぞれ監視する複数の断線監視手段」との記載にある「それぞれ」とは、単に複数の断線監視手段のそれぞれが、収容する回線の断線をそれぞれ監視しているということを意味するにすぎない。

したがって、本願発明は、収容回線中の特定の監視対象収容回線を監視するという構成となっている引用例記載のものを含む。

(2)  引用例に記載のものの交換局1から警備本部2に通報する電話回線は、中継局を介して通報する交換局間回線であることも当然想定でき、このような場合には、乙第1号証(昭63-104560号公開特許公報)及び乙第2号証(昭53-61206号公開特許公報)に記載されているように、交換局間の回線等について断線の監視を行い、断線以外の使用可能な回線を捕捉して発呼者と被呼者間の回線を形成することが普通に行われている。

したがって、引用例には記載されていないが、交換局1から警備本部2に通報する電話回線について、断線の監視が通常行われているものと解し得るのであり、発信に使用する回線の断線を監視することは通常採用し得るものである。

2  取消事由2について

(1)  乙第1号証には、第1の交換局(A局)と第2の交換局(B局)間の回線を対象として、

「〈1〉 回線障害が図(別紙乙第1号証図面参照)の回線×印の部分で発生する。

〈2〉 〈1〉で発生した障害を回線障害監視装置11bが検出すると、……回線障害が発生したことを中央制御装置13に通知するようインターフェース11cに命令する。

〈3〉 インターフェース11cは中央制御装置13に対して回線障害発生を通知する。

……

〈7〉 中央制御装置13は別回線に対して、固定回線を設定すべく分配装置12bに対して命令する。……

〈8〉 中央制御装置13から指令を受けた分配装置12bは指定された回線(図の破線部分)を設定する」

(3頁左下欄10行ないし右下欄15行)

と記載されており、この「指定された回線」の設定は使用可能な回線を設定することにほかならないから、乙第1号証には、第1の交換局(A局)と第2の交換局(B局)間の回線等について、回線障害監視装置11bが断線の障害(回線の断線も含まれる。)の監視を行い、中央制御装置13からの命令により、分配装置12bが断線以外の使用可能な回線を捕捉して、発呼者と被呼者間の回線を形成することが記載されている。

また、乙第2号証(別紙乙第2号証図面参照)には、交換局DSE-1、交換局DSE-2間の回線を対象として、

「各回線ごとに中継線の障害検出装置FDが設けられ、……

……中継線に障害が発生すると、中継線障害検出装置FDがこれを検出し、インターフェース装置INTFを介して処理装置CPUに通知する。……

処理装置CPUは、……加入者側の接続を復旧させずに、直ちに再設定要求に移る。すなわち……障害を検出した局が専用回線再設定要求のための処理を行い、……この局から直ちに迂回ルートの選択を行う。」

(2頁左下欄8行ないし右下欄16行)

と記載されており、この迂回ルートの選択は、使用可能な回線を選択することにほかならないから、そこには、交換局DSE-1、DSE-2局間の回線等について、中継線障害検出装置FDが障害(回線の断線も含まれる。)の検出を行い、CPUの再設定要求信号により、交換局DSE-1が断線以外の使用可能な回線を捕捉して、発呼者と被呼者間の回線を形成することが記載されている。

(2)  したがって、交換局間の回線等について断線の監視を行い、断線以外の使用可能な回線を捕捉して発呼者と被呼者間の回線を形成することは周知であり、交換局間の回線等について断線の監視を行い、断線以外の使用可能な回線を捕捉して発呼者と被呼者間の回線を形成することが普通に行われていることである。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1について判断する。

(1)  審決が認定したように、本願発明も引用例に記載のものも、報知部(これに相当する異常通報手段)が電話回線を使用して断線を所定の場所(警備会社・警備本部等)に報知するものである点は、原告らも特に争っていない。

本願発明の特許請求の範囲には「回線捕捉手段により捕捉した回線から所定の場所へ発信し、回線の断線を報知する報知手段」と規定されているので、少なくとも所定の場所(警備会社等)へ発信・報知するためには、NTT交換局につながる回線を使用せざるを得ない。そうすると、本願発明の要旨における「断線以外の使用可能状態の回線」の意味は、少なくともNTTの交換局につながる局線(外線)と限定して解釈するのが相当である。そして、本願発明の要旨によれば「少なくとも2回線を収容して切り替える」とあるので、この少なくとも2回線は局線(外線)であり、かつ監視されるものと認めることができる。

取消事由1で原告らが誤りであると主張する審決の認定(「引用例の断線判定手段5は、収容する回線の断線をそれぞれ監視する断線監視手段に相当する」とした認定)につき、被告は、本願発明の要旨中の「収容する回線の断線をそれぞれ監視する複数の断線監視手段」との記載にある「それぞれ」とは、単に複数の断線監視手段のそれぞれが、収容する回線の断線をそれぞれ監視しているということを意味するにすぎず、収容する回線すべて監視するものではない、と主張する。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には、「収容する回線の断線をそれぞれ監視する複数の断線監視手段」と規定されており、このことは、複数の収容する回線すべてについてそれぞれ監視する監視手段があることを意味するものと解することができる。すなわち、この「それぞれ」の語は「監視する」という動詞を修飾していることからすると、「それぞれ」は、文字どおり特許請求の範囲のその前の記載から導かれる「少なくとも2つの収容され切り替えられる局線(外線)」を、それぞれ全部監視するとの意味のものと認めることができるのであり、したがって、本願発明においては、監視されない局線(外線)はないというべきである。

(2)  他方、審決は、引用例に記載の断線報知装置を、交換局1、断線判定手段5、異常通報装置7から構成されるものとして認定しているところ、被告の主張に従い、交換局1を通して警備本部2に通報する電話回線が、断線の監視の対象となっているのか否かについて、以下判断する。

甲第6号証(引用例)によれば、引用例に記載のものにおいて、警備本部2と交換局1を結ぶ電話回線については、「起動スイッチ回路71の信号はデータ発生回路72に送出され、データ発生回路72は予め警備本部2の電話番号を記憶している本部電話番号記憶回路73を起動して自動ダイヤル回路75により警備本部2へ電話回線を使用して自動ダイヤルする。……警備本部2へ断線している当該電話番号とその断線情報を電話回線を使用して通報することができる。」(3頁右上欄14行ないし左下欄12行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、警備本部への電話回線は、交換機につながる一般的な加入者電話回線(外線)であると認められるところ、当該回線は切断されれば警備本部へ報知できないのであるから、基本的に切断されていないことを前提にしているものと認めるべきである。

(3)  被告は、警備本部が別の交換機につながっている場合については、乙第1、第2号証の記載を根拠にして、交換局間の回線等について断線の監視を行い、断線以外の使用可能な回線を捕捉して発呼者と被呼者間の回線を形成することが普通に行われており、引用例には記載されていないが、交換局1から警備本部2に通報する電話回線について、断線の監視が通常行われているものと解し得るのであり、発信に使用する回線の断線を監視することは通常採用し得るものである、と主張する。

しかし、乙第1号証(昭63-104560号公開特許公報。別紙乙第2号証図面参照))によれば、同公報に、「〈1〉で発生した障害を回線障害監視装置11bが検出すると、該回線障害監視装置11bは利用者端末1、5間が通信中であれば、通信制御回路11aに通信を中断するように命令し、回線障害が発生したことを中央制御装置13に通知するようインターフェイス11cに命令する。」(3頁左下欄11行ないし16行)、「〈6〉必要であれば、入出力装置21により保守者へ回線障害を通知する。」(3頁右下欄6行ないし7行)と記載されていることが認められ(別紙乙第1号証図面参照)、これによると、同公報に記載のものにおいては、交換局の回線障害監視回路が局間回線を監視しているものであり、必要であれば保守者へ回線障害を通知するものということができる。

また、乙第2号証(昭53-61206号公開特許公報)によれば、同公報には、次のような記載があることが認められる。

「 ところで、このような交換スイッチを介して専用回線を収用した交換網において、中継回線が障害になった場合には、何も対処せずに、障害中継回線が、復旧するのを待つ方法、あるいは中継回線の障害状況を保守者に通知し、保守者が新しいルートを設定する等の方法が採られている。」(2頁左上欄3行ないし8行)「第1図は、専用回線再設定方式のブロック図である。

いま、ある端末装置相互間で時分割多重伝送路の一部を使用して専用回線を設定する場合、各時分割交換機DSEでは、呼ごとに通信路を設定、解放することなく、保守者のコマンド等を……」(2頁右上欄1行ないし6行)、

「各回線ごとに中継線の障害検出装置FDが設けられ、該検出装置FDからの制御線および交換スイッチNWからの制御線は、インタフェース装置INTF(……)を介して中央処理装置CPUに結合される。」(2頁左下欄8行ないし13行)

これらの記載と乙第2号証の第1図を合わせてみると、乙第2号証には、各交換機に付属した障害検出装置FDが回線を監視しているものであり、回線障害を保守者に通知するものが記載されていることが明らかである。

以上のとおり、乙第1、第2号証に記載の障害監視回路・障害検出回路は交換機に包含されている装置であって、これらの断線情報は回線保守者に報知する性質のものであることが明らかであり、警備本部に報知することを想定していないものであるというべきである。したがって、乙第1、第2号証に基づく被告の前記主張は理由がない。

(4)  なお、引用例に記載のものにおいては、警備本部が別の交換機につながっている場合については、引用例に記載の交換局1から別の交換機を経て警備本部2につながることとなるから「監視されている」ことになるが、この場合に監視するのは、別の交換機に付属する障害監視回路・障害検出回路であって、引用例に記載のものの断線監視手段に相当するものではない。

以上のとおりであり、引用例には、本願発明の断線監視手段に相当するものは記載されていないものというべきである。そもそも、甲第6号証によれば、引用例には、断線情報が警備本部に報知される旨の記載を認めることができず、このことからしても、本願発明の断線監視手段に相当するものが、引用例に記載されているものと認めることはできないといわざるを得ない。

(5)  したがって、「引用例の断線判定手段5は、収容する回線の断線をそれぞれ監視する断線監視手段に相当する」とした審決の認定は誤りであり、この認定を基にしてした「収容する回線の断線をそれぞれ監視する断線監視手段」を備える点で、本願発明と引用例に記載のものは一致するとした審決の一致点の認定も誤りである。そして、この誤りは、本願発明を引用例に記載されたものに基づいて容易に発明することができたとする審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかである。

2  結論

よって、原告ら主張の取消事由2について判断するまでもなく、審決は取消しを免れず、主文のとおり判決する。

(平成11年4月9日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

別紙本願発明図面〈省略〉別紙引用例図面〈省略〉別紙乙第1号証図面〈省略〉別紙乙第2号証図面〈省略〉

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